監修者

児嶋雅幸

株式会社アリオン 代表取締役

児嶋 雅幸(本名:児嶋 正敬)

住宅ローン返済や任意売却の分野に20年以上携わる。2010年に株式会社アリオンを創業し、京都を拠点に、住宅ローンの返済に悩む方や不動産の売却を検討する方の相談に対応。宅地建物取引士、モーゲージプランナー(MP・CMP)、2級FP技能士(AFP)を保有し、京都を拠点に一人ひとりの状況に寄り添った生活再建をサポートしている。

自己破産すると、一定の価値がある持ち家や投資用不動産は原則として売却され、その代金が債権者への配当などに充てられます。そのため、自己破産後も不動産をそのまま所有し続けることは基本的に困難です。

ただし、実際の処分方法は、住宅ローンの残高や不動産の価値などによって異なります。また、自己破産前に任意売却を行ったり、自己破産以外の方法を選んだりすることで、その後の負担を軽減できる場合もあります。

本記事では、自己破産した場合の不動産の扱いや処分方法、任意売却を行う意味、自宅を残す・住み続ける方法について解説します。

1. 自己破産すると所有している不動産はどうなる

不動産を所有していても自己破産は可能ですが、価値のある不動産をそのまま残すことは原則として困難です。住宅ローンの有無や不動産価値によって扱いが変わるため、順番に確認しましょう。

(1)持ち家は原則として処分の対象になる

自己破産では、法律上手元に残すことが認められる一定の財産を除き、換価できる財産は処分されます。そのため、資産価値のある持ち家は基本的に手元に残せません。住宅ローンを完済している自宅も同様です。

ただし、市場価値が極めて低く、売却しても債権者への配当に回せる利益が見込めない場合などは、例外的に自宅が換価されず、結果として手元に残ることもあります。

また、個人再生には一定の条件で住宅ローンを払い続けながら自宅を残す「住宅ローン特則」がありますが、自己破産には同様の制度がありません。そのため、自己破産の制度を利用しながら住宅ローンだけを支払い続け、自宅の所有権を維持することは基本的にできません。

(2)住宅ローンが残っている場合は売却や競売が進む

住宅ローンが残る自宅には、通常、金融機関などの抵当権が設定されています。返済が難しくなった場合は、金融機関などの同意を得て所有者が任意売却する方法や、抵当権を持つ金融機関などが裁判所へ競売を申し立てる方法があります。

また、住宅ローン残高が不動産の価値を上回る「オーバーローン」の場合は、自宅を売却しても住宅ローンを完済できず、残債が残ります。こうした残債についても、ほかの借金とあわせて自己破産による整理の対象となります。

(3)自己破産の申立後も売却・競売までは住み続けられる場合がある

自己破産を申し立てても、直ちに自宅から退去する必要はありません。破産管財人(裁判所から選任され、財産の調査・管理・売却などを行う人)によって自宅が売却される場合は、売却に伴う引渡しまで居住できることがあります。

また、競売の場合も、申立てや競売開始と同時に退去するわけではありません。競売手続が進み、買受人が代金を納付して所有権を取得すると、自宅の引渡しを求められることになります。任意に退去しない場合には、引渡命令や強制執行によって退去を求められる可能性があります。

一方、自己破産を申し立てた後に、自宅を自由に売却できるとは限りません。破産手続開始決定がなされ、破産管財人が選任された場合、破産財団に属する不動産の管理・処分権は原則として破産管財人に専属します。

そのため、任意売却を検討している場合は、自己破産を申し立てる前の段階から弁護士や不動産会社へ相談しておくことが重要です。

(4)不動産投資に失敗した場合でも自己破産できる?

投資用マンションやアパートのローンを返済できなくなった場合でも、自己破産は可能です。借金をつくった原因が投資によるものであっても、それだけで自己破産できなくなるわけではありません。

投資用不動産に売却価値があれば、自宅と同様に売却されます。売却してもローンが残る場合は、その残額もほかの借金とあわせて自己破産で整理することになります。

ただし、借入れの経緯や自己破産前の財産処分などに問題がある場合は、借金の支払義務を免除してもらえるかどうかの判断に影響する可能性があります。たとえば、財産を隠したり、不当に安い価格で処分したりした場合などです。

2. 自己破産する場合の不動産の処分方法

自己破産における不動産の処分方法は、住宅ローンの残高や不動産の価値によって異なります。

住宅ローンを完済している場合や、売却して住宅ローンを返済しても余剰が残る場合など、不動産に換価価値があれば、破産管財人によって売却されることがあります。一方、住宅ローンが残っており、抵当権を持つ金融機関や保証会社などが担保権を実行する場合は、裁判所による競売が行われることがあります。

ここでは、それぞれの処分方法について詳しく見ていきましょう。

(1)破産管財人によって売却される

破産手続きを通じて不動産を売却する場合は、裁判所から選任された「破産管財人」が売却を進めます。破産管財人とは、本人の財産を調査・管理し、必要に応じて売却して債権者への配当などを行う人です。

たとえば、住宅ローンを完済している自宅や、不動産を売却して住宅ローンを返済しても余剰が残る場合などは、破産管財人によって売却されることがあります。破産管財人が選任された後は、対象となる不動産を本人の判断で自由に売却することはできません。不動産の売却は、原則として破産管財人が裁判所の許可を得て進めます。 

なお、住宅ローン残高が不動産価値を大きく上回るなど、売却しても債権者への配当に回せる価値がほとんどない場合は、破産管財人を選任せずに手続きを終える「同時廃止」となることもあります。ただし、不動産の状況だけで決まるわけではなく、ほかの財産や事情も踏まえて裁判所が判断します。

(2)債権者によって競売にかけられる

住宅ローンの返済が滞り、今後の返済も難しい場合は、抵当権を持つ金融機関や保証会社などが裁判所へ競売を申し立てることがあります。

競売では裁判所の手続きで不動産が売却され、代金は住宅ローンの返済などに充てられます。売却後も残債があれば原則として破産手続きの対象となり、免責許可決定が確定すれば、非免責債権などを除いて支払義務を免れます。

競売は所有者が売却価格や時期を自由に決められる手続きではありません。競売の流れや期間、回避策については、こちらの記事で詳しく解説しています。

競売とは?流れや期間・回避策などの知っておくべきポイントを解説

3. 自己破産前に任意売却するメリット

住宅ローンの返済が難しくても、自己破産を申し立てる前であれば、金融機関などの同意を得て自宅を任意売却する方法があります。

任意売却によって住宅ローンの残債を大きく減らせれば、借金全体の状況によっては自己破産を避けられる可能性があります。また、自己破産が避けられない場合でも、申立て前に自宅を売却することで、売却や転居の予定を立てやすくなるなどのメリットがあります。

ただし、自己破産を予定している場合は、売却価格や売却代金の使い方がその後の破産手続きに影響することがあります。任意売却を先に進めるのではなく、弁護士と不動産会社の双方へ相談しながら進めることが重要です。

(1)競売より高く売却できる可能性がある

任意売却は一般の不動産市場で買主を探すため、競売よりも市場価格に近い金額で売却できる可能性があります。高く売却できれば、その分だけ住宅ローンの返済に充てられる金額が増え、売却後の残債を減らせます。

自己破産を予定している場合、単に残債が減ることだけがメリットになるわけではありません。任意売却によって残債を十分に圧縮できれば、収入やほかの借金の状況によっては、分割返済や個人再生などによって自己破産を避けられる可能性もあります。

住宅ローンの返済が難しくなった段階で、まずは任意売却した場合にどの程度の残債が見込まれるのかを確認しておくとよいでしょう。

(2)退去時期を調整しやすい

自己破産を申し立て、破産手続きの中で自宅を売却することになると、所有者自身が売却時期や条件を自由に決めることは難しくなります。

一方、申立て前の任意売却であれば、金融機関や買主との合意は必要ですが、引き渡し時期について相談しながら売却を進められる場合があります。そのため、転居先を探す期間を確保するなど、自宅を手放した後の生活を見据えて準備を進めやすい点がメリットです。

ただし、希望する時期まで住み続けられるとは限りません。余裕をもって売却や転居の準備を始めることが大切です。

(3)引っ越し費用を確保できる場合がある

任意売却では、金融機関などとの交渉によって、売却代金から引っ越し費用を確保することを認めてもらえる場合があります。

住宅ローンの返済が難しい状況では、転居先の敷金や引っ越し代を新たに用意することも大きな負担です。売却とあわせて転居費用を確保できれば、自己破産をする場合であっても、その後の生活再建を進めやすくなります。

ただし、引っ越し費用が認められるかどうかや金額は、金融機関などの判断によって異なります。また、自己破産を予定している場合は売却代金を自由に使えるわけではないため、事前に弁護士へ確認したうえで進めましょう。

4. 自己破産前に不動産を売却するときの注意点

自己破産前の不動産売却は一律に禁止されていませんが、債権者に不利益となる処分をすると、破産手続きや免責に影響する可能性があります。特に、売却価格と家族への名義変更には注意が必要です。

(1)適正価格で売却する

自己破産前に不動産を売却する場合は、市場価格とかけ離れた安値で処分しないことが重要です。これは、本来であれば一定の金額で売却できる不動産を著しく低い価格で売れば、債権者への返済に充てられるはずだった財産を減らしたと判断される可能性があるためです。

そのため、売却前には不動産会社へ査定を依頼し、適正な価格を把握しておきましょう。必要に応じて複数社から査定を取り、査定書や売買契約書などを保管しておけば、後から売却条件の妥当性を説明しやすくなります。

(2)家族への名義変更を自己判断で行わない

親族への不当な名義変更は、破産管財人による否認権の対象となる可能性があるため、自宅を残す目的で、自己破産前に配偶者や子ども、親などへ名義だけを移すことは避けましょう。登記名義を変更しても、実質的に本人の財産であれば破産手続き上問題になる可能性があります。

また、自宅を財産から外す目的で名義だけを家族へ移したり、無償または著しく低い価格で譲渡したりする行為は、破産手続上問題となる可能性があります。さらに、債権者を害する目的で財産を隠すなど悪質なケースでは、詐欺破産罪として刑事罰の対象になることもあります。

親族間売買を考える場合も、自己判断で進めず、事前に弁護士へ相談しましょう。

5. 自己破産せずに自宅を残す・住み続ける方法はある?

「自宅を残したい」ときは、所有権を維持したいのか、所有権を手放しても同じ家に住み続けたいのかで選択肢が変わります。前者では個人再生、後者では親族による買い取りやリースバックが候補になります。

(1)自宅を残したい場合は個人再生を検討する

安定した収入があり、住宅ローンを今後も返済できる場合は、個人再生の「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用できる可能性があります。住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンは原則として返済を続けながら、それ以外の借金を減額することが可能です。

ただし、要件を満たした場合にしか利用できず、また、基本的には自分が居住する持ち家を守るための制度であるため、投資用不動産を残すことは原則としてできません。

個人再生と自己破産の違いについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

個人再生と自己破産の違い|自宅は守れる?費用・期間・条件を比較して判断

(2)親族による買い取りやリースバックは慎重に検討する

同じ家に住み続けることを優先する場合は、親族間売買やリースバックという方法があります。

親族間売買では、親や子どもなどに自宅を購入してもらい、その後も住み続ける方法が考えられます。ただし、売却価格が不当に低い場合などは、破産手続き上問題となる可能性があるため注意が必要です。

一方、リースバックは、自宅を不動産会社などへ売却した後、買主と賃貸借契約を結び、家賃を支払って住み続ける仕組みです。自宅の所有権は失うため、売却価格だけでなく、家賃や契約期間、将来の買い戻し条件なども確認する必要があります。

親族間売買やリースバックの仕組み、メリット・デメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

任意売却後も住み続けることは可能?リースバック・親族間売買を徹底解説

まとめ|住宅ローンの返済や不動産の処分に悩んだら早めに相談しよう

不動産を所有していても自己破産はできますが、一定の価値がある持ち家や投資用不動産をそのまま残すことは原則として困難です。住宅ローンが残っている場合は、破産管財人による売却や債権者による競売が進むことがあります。

一方、競売前であれば任意売却を行い、一般の不動産市場での売却や退去時期の調整を目指せる場合があります。ただし、自己破産前の売却や名義変更は、その方法によって破産手続きに影響するため、自己判断で進めるべきではありません。

住宅ローンの返済が難しくなったら、競売が進んで選択肢が狭まる前に対応することが重要です。自己破産については弁護士へ、不動産の売却については任意売却に詳しい不動産会社へ相談し、両者と連携しながら今後の方針を検討しましょう。