相続では、預貯金や不動産などの「プラスの財産」だけでなく、借金などの「マイナスの財産」も引き継ぐことになります。そのため、亡くなった方に住宅ローンの残債がある場合、相続人がその返済義務を負うケースも少なくありません。

ただし、住宅ローンには団体信用生命保険(団信)が付帯していることも多く、団信の有無によって相続後の対応は大きく異なります。また、売却してもローンを完済できない「オーバーローン」の場合には、任意売却や相続放棄なども視野に入れる必要があります。

本記事では、住宅ローンを相続した際の基本的な考え方や選択肢、相続税との関係、具体的な手続きの流れまでわかりやすく解説します。

1. 団信に加入していれば住宅ローンは相続されない

住宅ローンを相続した場合、まず確認したいのが団体信用生命保険(団信)の加入状況です。団信の有無によって、その後の対応は大きく変わります。

団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローン契約者が死亡または高度障害状態になった際に、保険金によって住宅ローン残高が返済される保険です。

団信が適用されると、相続開始時点で住宅ローンは完済された状態となるため、相続人が返済を引き継ぐ必要はありません。不動産のみを相続財産として取得でき、住宅ローンの負担を心配せずに済みます。

そのため、まずは住宅ローン契約書や保険証券、金融機関からの案内書類などを確認しましょう。書類が見当たらない場合でも、借入先の金融機関へ問い合わせれば加入状況を確認できます。

2. フラット35や古い住宅ローンでは団信未加入の場合もある

団信に加入していれば住宅ローンは完済されますが、すべての住宅ローンに団信が付いているわけではありません。契約内容によっては、相続人が返済義務を引き継ぐケースもあります。

現在の住宅ローンでは団信加入が一般的ですが、フラット35や契約時期の古い住宅ローンでは、団信に加入していない場合があります

特にフラット35では、借入時期や契約内容によって団信の扱いが異なります。2017年10月1日以降の申込受付分から団信制度は変更されていますが、現在でも健康上の理由その他の事情により、団信に加入せず利用できる場合があります。

そのため、フラット35を利用している場合は、「住宅ローンだから団信で完済されるはず」と判断せず、契約書類や金融機関への問い合わせによって、実際の加入状況を確認することが重要です。

団信未加入の場合、住宅ローン残債は相続財産上の債務として扱われます。相続人は返済を続けるのか、不動産を売却するのか、あるいは相続放棄をするのかなど、状況に応じた判断が必要になります。

3. 団信なしで住宅ローンを相続した場合の選択肢

団信が適用されない場合でも、慌てて判断する必要はありません。ただし、相続放棄や限定承認には期限があるため、早めに財産状況と住宅ローン残高を確認することが大切です。

ここでは、団信なしで住宅ローンを相続した場合の対処法について解説します。

  • 住宅ローンを引き継いで住み続ける
  • 自宅を売却して住宅ローンを返済する
  • 相続放棄をする
  • 限定承認を検討する

(1)住宅ローンを引き継いで住み続ける

相続人が住宅ローンの返済を継続しながら、自宅に住み続ける方法です。

ただし、被相続人が亡くなったからといって、自動的にこれまでと同じ条件で返済を続けられるとは限りません。契約者の死亡によって住宅ローンの残債が確定し、金融機関から一括返済を求められるケースもあります。

そのため、相続人が返済を希望する場合は、金融機関と債務引受について協議したり、新たに住宅ローンを契約して借り換えたりする必要があります。返済能力や年齢などによっては承認されない場合もあるため、早めに相談することが重要です。

(2)自宅を売却して住宅ローンを返済する

相続した不動産を売却し、その売却代金を住宅ローンの返済に充てる方法です。相続人自身がその住宅に住む予定がない場合や、今後の返済負担を避けたい場合には、有力な選択肢の一つとなります。

売却価格が住宅ローン残高を上回る場合は、売却代金によって住宅ローンを完済したうえで、残った資金を相続財産として受け取ることができます。一方で、売却価格よりも住宅ローン残高のほうが多い「オーバーローン」の状態では注意が必要です。

オーバーローンの場合、売却代金だけでは住宅ローンを完済できないため、金融機関が設定している抵当権を抹消できず、通常の不動産売却を進められません。不足分を自己資金で補えれば売却できる場合もありますが、多額の資金を用意することが難しいケースも少なくないでしょう。

このような場合に検討されるのが、金融機関の同意を得て住宅ローンを完済する前に売却を行う「任意売却」です。任意売却は、競売とは異なり一般の不動産市場で買主を探すため、市場価格に近い金額で売却できる可能性があります。その結果、競売よりも売却後の残債を抑えられることがあり、引越し時期などについても一定の調整がしやすい点が特徴です。

ただし、任意売却には債権者との交渉が必要であり、すべてのケースで実施できるわけではありません。競売手続きが進行している場合は時間的な制約もあるため、オーバーローンが判明した段階で、できるだけ早く不動産会社や弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

任意売却の仕組みや手続きの流れ、メリット・デメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

任意売却とは?競売との違い・流れ・デメリットまでわかりやすく解説

(3)相続放棄をする

相続放棄とは、被相続人の財産を一切引き継がない手続きです。

相続放棄は、住宅ローンの返済負担が大きく、預貯金などのプラスの財産を上回る場合には、有効な選択肢となります。ただし、相続放棄をすると、住宅ローンだけでなく、不動産や預貯金などの財産も基本的に相続できなくなってしまいます。

また、相続放棄は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内」に家庭裁判所へ申述しなければなりません。一度受理されると原則として撤回できないため、不動産の売却や処分を進める前に専門家へ相談し、財産状況を十分に調査したうえで判断しましょう。

(4)限定承認を検討する

限定承認とは、相続によって取得したプラスの財産の範囲内でのみ、被相続人の債務を引き継ぐ制度です。

通常の相続(単純承認)では、プラスの財産もマイナスの財産もすべてそのまま引き継ぎます。そのため、例えば預貯金が100万円しかないのに住宅ローンの残債が500万円あった場合、差額の400万円は相続人自身の財産から返済しなければなりません。

一方、限定承認を選択した場合は、引き継いだプラスの財産の範囲内でのみ債務を返済すればよく、それを超える負債については責任を負わなくて済みます。上記の例であれば、100万円の預貯金の範囲内で返済すれば足り、残りの400万円について相続人が自己負担することはありません。財産と負債のどちらが多いか判断できない場合でも、相続人自身の財産を超えて返済義務を負わずに済む点がメリットです。

ただし、限定承認は実務上あまり利用されていません。相続人全員で共同して申し立てる必要があることに加え、手続きが複雑で時間や手間がかかるためです。そのため、限定承認が検討されるケースでは、実際には最終的に相続放棄がなされることが一般的です。

4. 住宅ローンと相続税の関係

住宅ローンを相続した場合は、返済方法だけでなく、相続税への影響についても確認しておきましょう。団信の有無によって、税務上の取り扱いも異なります。

以下からは、住宅ローンと相続税の関係について詳しく解説します。

(1)住宅ローン残債は債務控除の対象になる

被相続人に住宅ローン残債がある場合、一定の要件を満たせば「債務控除」を受けられます。

債務控除とは、相続税を計算する際に、相続財産の総額から被相続人の借入金などの債務を差し引ける制度です。住宅ローン残高を控除できれば、課税対象となる遺産総額が減少し、相続税負担の軽減につながる可能性があります。

ただし、保証債務など対象外となるものもあるため、詳細は税理士へ確認することをおすすめします。

(2)団信で完済された住宅ローンは債務控除できない

団信によって住宅ローンが完済された場合、債務控除の対象にはなりません。

団信が適用されると、保険金によって住宅ローンが返済されるため、相続開始時には住宅ローンの債務は存在しないものとして扱われます

そのため、当然住宅ローン残債を債務控除として差し引くこともできません。この点は、団信未加入の場合との大きな違いとして理解しておきましょう。

(3)相続税評価額と住宅ローン残高の考え方

相続税の計算に用いる不動産の価値は、市場価格ではなく「相続税評価額」を基準に算定されます。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額によって評価されるため、実際の売却価格よりも低い金額になるケースが一般的です。

例えば、市場価格が3,000万円の戸建て住宅でも、相続税上の評価額は2,000万円程度になることがあります。そのため、「市場価格が高い=相続税も高い」とは限らず、実際の税負担は想定より低く抑えられるケースもあります。

さらに団信未加入でローン残債がある場合、その残債は遺産総額から差し引く「債務控除」の対象となるため、課税対象額をさらに圧縮できる可能性があります。住宅ローンが残っているからといってすぐに相続放棄を判断するのではなく、まずは相続税評価額と債務控除を踏まえた実際の税負担を税理士に試算してもらうことをおすすめします。

5. 住宅ローンを相続したときの手続きの流れ

住宅ローンを相続した場合は、残債や団信の有無、不動産の取得者を順番に確認しながら手続きを進めることが重要です。対応を誤ると、返済方針や相続人間の負担割合をめぐってトラブルになる可能性もあります。

ここでは、一般的な手続きの流れについて解説します。

  1. 金融機関へ連絡して残債を確認する
  2. 団信加入状況を確認する
  3. 遺産分割協議で不動産の取得者を決める
  4. ローン承継・借り換え手続きを行う
  5. 相続登記や抵当権抹消登記を行う

(1)金融機関へ連絡して残債を確認する

まずは借入先の金融機関へ連絡し、住宅ローンの残高や契約内容、返済状況を確認しましょう。相続人だけで判断すると、返済義務の有無や今後の対応を誤る可能性があります。

早い段階で金融機関と情報共有することが大切です。

(2)団信加入状況を確認する

住宅ローン契約書や保険証券、金融機関から送付された案内書類などを確認し、団信の加入状況を把握しましょう。書類が見当たらない場合でも、借入先の金融機関へ問い合わせれば確認できるケースがほとんどです。

また、団信に加入していても、保険金の請求には死亡診断書などの提出が必要になる場合があります。必要書類や手続きの流れについても、あわせて金融機関へ確認しておくと、その後の相続手続きをスムーズに進めやすくなります。

(3)遺産分割協議で不動産の取得者を決める

相続人が複数いる場合は、遺産分割協議によって不動産を誰が取得するかを決めます。住宅ローンが残っている場合は、不動産の取得者だけでなく、返済負担をどのように整理するのかも重要なポイントです。

遺産分割協議を行わない場合、相続財産は法定相続分に応じて共有状態となり、住宅ローンなどの債務も原則として法定相続分に応じて各相続人が承継することになります。その結果、「誰が住むのか」「誰がどの程度返済を負担するのか」が曖昧になり、相続人同士のトラブルにつながるおそれもあります。

そのため、特定の相続人が不動産を取得して住み続けるのか、売却して現金を分けるのかなどを含め、協議内容を書面で明確にしておくことが大切です。

(4)ローン承継・借り換え手続きを行う

不動産を取得した相続人が住み続ける場合は、金融機関と協議し、住宅ローンの承継や借り換えの手続きを進めます。ただし、契約者が亡くなった後も自動的に従前と同じ条件で返済を続けられるとは限らず、相続人の収入や年齢、信用状況などをもとに審査が行われることがあります。

金融機関の承認が得られない場合は、返済方法の見直しや不動産の売却を検討しなければならないケースもあります。相続した不動産に住み続ける意思がある場合は、できるだけ早い段階で金融機関へ相談し、今後の対応方針を確認しておくことが大切です。

(5)相続登記や抵当権抹消登記を行う

不動産を相続した場合は、被相続人から相続人へ名義を変更する「相続登記」が必要です。また、住宅ローンを完済した場合には、金融機関が設定している抵当権を抹消するための「抵当権抹消登記」も行います。

なお、相続登記は2024年4月から義務化されており、原則として相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。必要書類の収集や申請に不安がある場合は、司法書士などの専門家へ相談すると安心です。

まとめ|住宅ローンの相続で困ったら早めに専門家へ相談を

住宅ローンは、団信が適用されない限り、原則として相続の対象となります。そのため、団信未加入の場合は、住み続ける、売却する、相続放棄する、限定承認を選択するといった判断が必要になります。

特に、売却してもローンを完済できないオーバーローンのケースでは、任意売却を含めた専門的な対応が求められます。また、相続税や登記手続きなど、税務・法務上の検討事項も少なくありません。

住宅ローンの相続は、早めに状況を整理して適切な対応を取ることが重要です。一人で悩まず、必要に応じて金融機関や弁護士、税理士、司法書士などの専門家へ相談しながら進めましょう。