離婚を考え始めたとき、多くの方が頭を悩ませるのが「自宅と住宅ローンをどうするか」という問題です。特に、売却してもローンが完済できないオーバーローンの場合、通常売却ができず、選択肢が見えにくくなりがちです。
本記事では、離婚時に検討される任意売却について、通常売却や競売との違い、メリット・デメリット、売却のタイミングや注意点までを分かりやすく解説します。
1. 離婚時の任意売却という選択肢について

離婚をきっかけに自宅の売却を検討する方の多くが、まず通常売却を想定します。しかし査定を取った結果、売却しても住宅ローンが完済できない「オーバーローン」だと分かり、行き詰まってしまうケースも少なくありません。
通常売却では、原則としてローンを完済しなければ抵当権を外せないため、追加入金が必要になります。しかし、離婚に伴う財産分与や新生活の準備があるなか、まとまった資金を用意するのは困難です。
こうした状況で検討されるのが、任意売却です。任意売却とは、金融機関の同意を得たうえで、ローン残債が残る状態でも自宅を売却する方法です。競売とは異なり、市場価格に近い金額での売却が期待できるため、離婚後の金銭的負担を減らすことにもつながります。
2. 離婚時に任意売却を検討すべきケース

離婚時に任意売却を選択肢として考えるべきケースは、主に以下の2つの状況が考えられます。それぞれの状況について詳しく見ていきましょう。
- 通常売却ができない場合
- 住宅ローンの支払いができない場合
(1)通常売却ができない場合
自宅を売却しても住宅ローンを完済できない状態では、通常売却は選択できません。具体的には、査定価格よりもローン残高が上回っているオーバーローンであり、かつ不足分を自己資金で補填できない場合です。離婚時は収入や貯蓄が分かれるため、単独で追い金を用意することが難しく、この条件に該当するケースが少なくありません。
このように「売却価格」「ローン残高」「自己資金」のバランスが崩れている場合、通常売却ではなく、任意売却を検討することになります。
(2)住宅ローンの支払いができない場合
離婚によって世帯収入が分かれ、住宅ローンの支払いを継続できなくなる場合も、任意売却を検討すべき代表的なケースです。
共働きやペアローンで購入した住宅では、離婚後に単独で返済を続けることが難しく、滞納リスクが高まります。返済が滞ると、遅延損害金の発生や信用情報への影響に加え、最終的には競売に進む可能性もあります。競売は売却価格が低くなりやすく、残債がより多く残る傾向があるため、ますます生活が苦しくなってしまいます。
そのため、離婚後に一人でローンの支払いをすることが困難となることが見込まれる場合も、任意売却を検討することとなります。
3. 離婚時の任意売却のメリット

離婚時における任意売却の主なメリットを見ていきましょう。
- オーバーローンでも財産関係を整理できる
- 債務名義や連帯保証人の責任を解消できる
- 残債の分割返済交渉ができる
(1)オーバーローンでも財産関係を整理できる
任意売却の大きなメリットは、オーバーローン状態であっても自宅を手放すことで、夫婦間の財産関係を整理できる点にあります。通常売却ができない場合、自宅を共有したままローンだけが残り、離婚後も金銭的なつながりが続いてしまいがちです。
任意売却では、売却と同時に住宅ローン残債の扱いを金融機関と協議できるため、「家をどうするか」という問題に一つの区切りをつけやすくなります。離婚後の生活をそれぞれが再スタートするための現実的な選択肢といえるでしょう。
(2)債務名義や連帯保証人の責任を解消できる
任意売却により、夫婦で組んだ住宅ローンの債務名義や連帯保証人の責任を解消し、離婚後の残債リスクをなくすことができます。通常、夫婦で組んだ住宅ローンの連帯債務・連帯保証は、離婚して名義や財産分与を整理しても、自動的には解除されないため、住宅ローンの債務名義と連帯保証人の責任は変わりません。
しかし、任意売却ができれば離婚後の連帯での責任や金銭的なつながりから脱却することができます。
これにより、名義人が住宅ローンの支払いを滞せており、連帯保証人がその残債返済を求められるというようなケースを防ぐことが可能です。
(3)残債の分割返済交渉ができる
任意売却後に残る住宅ローンについては、金融機関と協議のうえ、分割返済などの条件を再設定できる可能性があります。離婚後は収入が単独になるケースが多く、一括返済や高額な返済は現実的ではありません。
任意売却では、家計状況を踏まえた無理のない返済計画を立てやすく、競売に進んだ場合と比べて生活再建への負担を抑えられる点が特徴です。そのため任意売却は、将来を見据えた債務整理の一環としても活用されています。
4. 離婚時の任意売却のデメリット・注意点

任意売却は離婚時における有効な手段である一方、離婚という状況特有の注意点も多く存在します。後悔のない判断をするためにも、あらかじめデメリットやリスクを正しく理解しておくことが重要です。
- 債権者の同意が必要となる
- ペアローンの場合、配偶者の同意が必要となる
- 残債の返済についてトラブルとなる可能性がある
- 保証人・連帯債務者に請求が行く可能性がある
- 信用情報に傷がつく
(1)債権者の同意が必要となる
任意売却は、住宅ローンを貸し付けている金融機関などの債権者の同意がなければ成立しません。売却価格や諸費用の配分、残債の扱いについて承認を得る必要があり、必ずしも希望条件がそのまま認められるとは限りません。
交渉が長引くと売却時期が遅れ、離婚後の生活設計に影響が出ることもあります。任意売却は「自由に売れる方法」ではなく、債権者との調整を前提とした手続きである点を理解しておく必要があります。
(2)ペアローンの場合、配偶者の同意が必要となる
ペアローンや共有名義の住宅の場合、任意売却を進めるには原則として配偶者双方の同意が必要です。離婚協議中は感情的な対立が生じやすく、売却条件や手続きへの協力が得られないケースも少なくありません。
一方が非協力的になると、手続きが停滞し、結果として競売に進んでしまうリスクもあります。離婚と任意売却を並行して進める場合は、合意形成の難しさが大きな課題となります。
(3)残債の返済についてトラブルとなる可能性がある
任意売却を行っても、住宅ローンの残債が自動的に消えるわけではなく、売却後も返済義務は残ります。離婚後、この残債をどちらが負担するのか、または二人で分担するのかを明確に決めておかないと、後々トラブルになりやすい点には注意が必要です。
特に連帯債務やペアローンの場合、片方の支払いが滞ると、もう一方に全額の請求が及ぶ可能性があります。たとえ離婚協議で「折半」と取り決めていても、金融機関との契約内容が優先されるため、内部合意だけでは不十分です。
そのため、返済責任の所在と支払いが滞った場合の対応まで含めて、現実的に整理しておくことが重要です。
(4)保証人・連帯債務者に請求が行く可能性がある
主債務者が残債を返済できなくなった場合、保証人や連帯債務者に返済請求が行く可能性があります。離婚後、「自分は家を出たから関係ない」と思っていても、契約上の責任が残っているケースは少なくありません。
特にペアローンでは、双方が債務者であるため影響はより大きくなります。誰がどの債務を負っているのかを正確に把握したうえで判断することが重要です。
(5)信用情報に傷がつく
任意売却に至った原因が、住宅ローンの滞納である場合には、滞納状況が個人信用情報機関に事故情報として登録されます。事故情報は、完済から5~7年にわたって登録されることとなり、この期間中は新たな借入れやクレジットカードの利用が原則としてできなくなります。
このことは、離婚後の新生活を始めるにあたって、例えば自動車や不動産の購入などに際して大きな障害となる可能性があります。そのため住宅ローンの支払いが困難である場合には、滞納期間が長期間にわたる前に、早急に任意売却を含めた対応を検討するようにしましょう。
5. 離婚のタイミングと売却、どちらを先にすべき?

離婚と任意売却は、どちらを先に進めるかによって手続きの進めやすさやリスクが大きく変わります。それぞれのタイミングにはメリット・デメリットがあるため、状況に応じた判断が必要です。
(1)離婚前に売却するメリット
離婚前に売却を進める最大のメリットは、夫婦双方が当事者として協力しやすい点にあります。連絡や意思確認が比較的スムーズに行えるため、金融機関との交渉や売却条件の調整、必要書類の準備を一体で進めやすくなります。
また、売却後の残債や費用の分担についても、財産分与の一環として整理しやすく、後日のトラブルを防ぎやすい点も利点です。感情的な対立が深刻化する前であれば、実務を優先して冷静に判断できる可能性があります。
(2)離婚後に売却するメリット
離婚後に売却を行う場合、精神的に落ち着いた状態で判断できる点がメリットといえます。離婚協議が長期化している場合や、感情的な対立が強い場合には、先に離婚を成立させることで冷静に売却と向き合えることもあります。
ただし、名義や債務が共有のまま残っていると、売却に際して再び協力が必要となり、話し合いが難航するリスクもあります。離婚後に売却する場合は、事前に売却方針や協力義務を明確に取り決めておくことが重要です。
6. 離婚時の任意売却の流れ

離婚時の任意売却は、通常の売却よりも確認事項が多く、段取りを誤ると手続きが停滞するおそれがあります。そこで、まずは全体の流れを把握しておくことが重要です。
【離婚時における任意売却の基本的な流れ】
- 住宅ローン残高・名義・契約内容の確認
- 不動産会社への相談・査定依頼
- 金融機関(債権者)への任意売却の打診
- 売却活動の開始
- 買主決定・売買契約の締結
- 引き渡しと同時にローン返済・残債整理
この流れの中で特に重要なのが、早い段階で名義や債務関係を整理することです。ペアローンや連帯債務の場合、どちらか一方の判断だけでは進められません。また、離婚協議と並行して進むケースが多いため、売却後の残債を誰がどのように負担するのかについても、金融機関との交渉内容を踏まえて決めていく必要があります。
任意売却をスムーズに進めるためには、専門的な知識や経験が求められる場面も多いため、任意売却に関するノウハウが豊富な不動産会社に相談することをおすすめします。
まとめ|離婚時の任意売却をスムーズに進めるために早めの準備を
離婚時に自宅がオーバーローンとなっている場合、通常売却ができず、住まいや住宅ローンの扱いに行き詰まるケースは少なくありません。任意売却は、金融機関の同意を得ることでローン残債が残る状態でも売却を可能にし、競売を回避しながら財産関係や生活基盤を整理できる方法です。
一方で、債権者や配偶者の同意、返済責任の所在、信用情報への影響など、離婚特有の注意点も多く存在します。感情面だけで判断せず、将来の生活再建を見据えて、専門家の支援を受けながら慎重に選択することが重要です。




